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車道に1台の車が、走って行ってあっという間に見えなくなった。
まるでこの“空間”にあたしは存在してないみたい。
家の中みたいだ。
あたしは家の中では空気。“いない”みたいなモノ。
家族とたいした会話もしないし、ご飯も一緒に食べない。
自分がこんな薄っぺらい存在になったのは、もう何年前からだろう。
まさか家の外でもこんな事を感じるとは思わなかった。
――――参ったな、相当気が弱ってきてるみたい。
あたしの事はいいから子猫だけでも誰か助けてあげて欲しい。
段ボールに箱詰めされて、やっと外に出られたんだもの。
この子には生きる権利がある。
呼吸するのが苦しくなってきて、あたしが荒い息を漏らすと子猫は傍に来てくれた。頬に擦り寄って来て、励ましてくれてるようだった。
「キミは優しいね…ありがとう‥」
瞼が重たい。
体が熱い。
━━━━誰か、助けて。
あたしに気付いて。
「恭…ちゃん‥」
朦朧とする意識の中で出てきたのは、父親でも母親でもない。今はどこにいるのかすら解らない幼馴染みの名前だった。
“恭ちゃん”こと林堂恭一(りんどうきょういち)。
ちゃんと生きてるなら今年二十六歳になる男の人。あたしが生まれてからずっと“お兄ちゃん”みたいだったのに、8年前に突然“留学する!”って言ってあたしの前からいなくなった薄情者。
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