開始・潮湿

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そっと手を伸ばし、その肌に触れる。 この感触は…間違えなく本物の人間だ。 だが、どこかおかしい。 まるで、人形と接してるような――― ――――っ!! ハッと我に帰る。 彼女に魅了されていたのか、気が付くと瑠璃子は、青子の顔に自身の顔を近づけていたのだ。 慌てて自身の顔を退け、呼吸を整える。 「ボ、ボクは何を……!?」 呼吸を整え、次第に心も落ち着いてくる。 ―――あれ? それと同時に、妙な違和感にも気が付いてしまう。 この人…ボクが近づいた時に―――。 確認の為、瑠璃子は自分の手のひらを青子の口と鼻の前に広げる。 ………!? 息をしてない!? すぐさま自身の耳を青子の胸元へと近付ける。同時に、左手で青子の右腕から脈を計る。 「…う…嘘!?」 この「蒼崎青子」は間違いなく「人間」である。 しかし、彼女が寝ているのなら。 彼女が生きている状態だと言うのなら、それは呼吸をしていて、心の臓によって身体を機能させる為に、血液を全身へ循環させてなくてはならない。 以上の項目に該当しないとするなら、 その人間は―――死んでいる!!? 「!!!!?………ひっ……」 瑠璃子は腰が砕けそうになり、その場に尻餅をついてしまった。 死んでいる―― そう、人が死んでいる。 ―――逃げなきゃ!! すぐに立ち去らないと!! 確かにボクは面倒事が嫌いだ。 特にこんな面倒事に巻き込まれるなんて御免被りたい。 しかし、それより何より、瑠璃子の心を支配したのは…… この場に居ることが怖い!! そう、人間も然り、あらゆる命に言える事だが、生物には身の危険を感じとり、それを回避しようとする本能的な危機察知能力がある。 瑠璃子の今の状況を例えるなら、まさにそれ。 恐怖に支配され、半ば錯乱状態で出口へと走る。 意識だけが先走って暴走気味に動く足のせいで、上手く走れない。 大した距離でもないのに、この部屋の出口が遠く感じる。 ハァ!ハァ!あと少し……!! 店の出口はすぐそこ。 あと三歩くらいで、この長く続いた数秒の恐怖から解放される。 そう、解放され―― ガチャッ 不意に扉が開く。 ――え? 信じられない。 今度は目の前に、蒼崎青子が。 奥の部屋で死んでる筈の蒼崎青子が、目の前に―― ――――――――――――――
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