84人が本棚に入れています
本棚に追加
人形と見紛う顔立ちに、少々きつい目元。透き通るような白い肌にすらりとした体躯。どう見ても人外です本当にありがとうございました。
「初対面の相手に悪魔なんて、お兄ちゃんひどい!」
実年齢と反比例する声で叫ぶと、目の前の男は鼻を鳴らした。身長だけでなく精神的にも見下されているようで腹が立つ。灸をすえてやりたいところだが、地上で魔力を放出すると天界にばれてしまう。大天使さまとやらに浄化されでもしたらたまらないので、ぐっと堪えておいた。見た目はアレだが、中身は大人、それもいい女なのだ。
少女にひどいと叫ばれた男は、また口を開いた。「で、悪魔なんだろ」質問しているのか断定しているのか判りづらい。仕返しに鼻を鳴らしてやる。
「誰があんたなんかに教えるもんですか!オカルト趣味も大概になさいな」
「………」
「な、何か言ったらどうなの」
ふぅ、と息を吐いた男に嫌な予感がした。身構える私に向かって、彼は紡ぐ。
「"天におわします我等が神よ、今悪しき魂に聖なる――」
ぞわっと、背筋に悪寒が走る。よく響く声で紡がれるは、天使の扱う対魔術"聖音"である。人間と変わりない姿に気づかなかったが、この男はどうやら―天使らしい。
「なッ、ちょ、待ちなさい!!いきなり聖音って何を考えているの!?死んだらどうすんのよ!!」
「"神よ!試練たる荊を取り除き、彷徨える魂に広き門を!"」
私の話を全く聞かず、男は違う詠唱に切り替えた。聞いたことのない聖音だが、不公平なことに聖音に対抗する手段を悪魔や吸血鬼は持ってはいない。言わば、逃げるが勝ち。走り出した私の背に、無駄な美声がふりかかる。「【捕縛せよ】」ラテン語で紡がれた言葉の通りに、私は見えない糸で動きを阻害された。
結構本気でやばい。
最初のコメントを投稿しよう!