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南龍は眞守巳を抱き抱えて膝の上に置いた。
抱き抱えられた眞守巳は驚いているのか何も言わなければ動くこともしなかった。
南龍はその小さな鼓動を聴いて暫く黙る。
あの日も雪が降っていた。
この襟巻きのような火が、雪を溶かしていた。
幼い赤狸もこうしてじっとして、腕の中で眠っていたか。
――子供達を、頼みます。
強く、正しく、聡明で、心から愛した貴女を、この雪の中で、あの日失った。
悲しい事と言うなら、それ以外あるだろうか。否、悲しいで済むのだろうか。
「松山様?」
南龍はふっと笑うと、襟巻きを眞守巳に返し眞守巳を担いで立ち上がった。
「わぁあっ!?」
「眞守巳殿、今日は鍋をするのだが、家に来ないか。すっかり雪で冷えただろう。温まるといい」
大股で歩き出す南龍の肩の上で、眞守巳がおろおろとしながらも「行きます」と応えてくれた。
雪は、まだ降っていたが、眞守巳を抱えた南龍の姿を溶かしはしなかった。
【了】
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