prologue

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一体今朝はどうなっているのかと、顔をしかめながら廊下を歩く。 壁際に飾られた絵画や花瓶は、 丁寧に掃除されており、昨日までは女中がいたことを証明せんばかりに輝いている。 足の裏に感じる、深紅の絨毯にも埃一つ見受けられない。 確かに人が住んでいる気配はあるのに、肝心の人が見つからない。 長い回廊の突き当たりにある部屋の戸をノックした。 女中の中でも上位に当たる、掃除長の部屋である。 然し返答はない。 ノブを掴んで回せば、鍵が掛けられていないのかするりと抵抗無く回った。 「入るぞ」 念のため一声掛けてから手前に引く。 部屋の中は几帳面に片付けられてはいたものの、生活感は十分にあった。 やはり足りないのは、部屋の主だけである。 それ以上深入りすることもなく扉を閉めると、また歩を進めた。 無意識にそうなっていたのか、気付くと大分歩調が普段よりも速い。
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