1人が本棚に入れています
本棚に追加
「アイリスぅ、学校に行く時間だよぉ?」
「ああ。分かってる」
あの朝から三年の月日が経とうとしていた。
十八歳を迎えた、この屋敷の長男でもあり―
両親が居なくなった今、伯爵の爵位を名乗ることを許された青年、
アイリス・ダングルベールは、
持っていたティーカップを静かにソーサーに戻した。
父親は五歳の時に他界し、母親はあの朝行方が分からなくなってから一度もその姿を見ていない。
何故かこの屋敷で働いていた使用人たちも忽然と姿を消し、今此処にいるのは、
アイリスの幼少時代からこの屋敷に専属道化師として仕えていた
エマニュエル・テッド一人だけである。
アイリスの小さい時から遊び相手としても働いてくれていたエマニュエルは、
アイリスが親を除いて唯一気を許せる人物である。
然し、名前以外は知らないというのもまた事実だった。
生まれ育った環境も、両親の有無も、そして年齢さえも。
道化師という職業上、常に顔に施している化粧のせいで、年齢が全く読み取れない。
最初のコメントを投稿しよう!