涙泪

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「あたしに恩がある?そんなもん、とっくに返してるだろ」 そうだ。 こいつがあたしに感じてる恩だって、とっくに返せているのだ。 だから、あたしなんかに構う理由になんてなり得ない。 そのとき、浩平はあたしの肩に手をかけて振り向かせると、あたしにキスをした。 数秒の沈黙。 その間、あたしは瞬きも呼吸も忘れていた。 「これでわかった?」 「……嫌だ。こんなの、あたしは嫌だ!絶対に、あたしは認めないからな!」 浩平が、あたしに? 進藤があたしにいったこととは、そういうことなのか? けど、あたしは認めたくない。 認めてしまえば、あたしは、こいつと本当に距離を離さなくてはならなくなるから。 浩平に対して、誰よりも強固な壁を作らなきゃならなくなるから。 「うん。認めなくていいよ。でも、僕が梓を好きだってことは、知っておいてね。梓がちゃんと僕を意識してくれたら嬉しいけどね」 「知るか、バカ!二度とするんじゃねえぞ!?次やったら絶交だからな!?」 なんだよ、こういうのって、漫画とか小説とか、フィクションにおける告白のシーンだろうが。 なんでそんなメタなシーンにあたしが遭遇してるんだよ。 浩平に至ってはふられたも同然の中で、けらけらと笑っていやがるし。 ああ、くそ。 不愉快だ、不愉快すぎてヘドが出そうだ。 「くそ、ああもういい。今日は晩飯の当番はサボる。町まで出てからハンバーガーでも食って帰ってやる」 などと、自分でも訳の解らない逃避をしているけれど、どうにも感情のコントロールが出来ない。 あたしは浩平から荷物を引ったくると、コンビニそばのバス停まで歩き、待ち合いのベンチに腰かけた。 「奢るよ?」 「うるさい。………なんだよ、わかった、奢ってもらうから落ち込むんじゃねえよ」 こいつが落ち込むと調子が狂うのし苛立つので、おとなしく奢ってもらうことにした。 ―◇― それから町でハンバーガーを食べてから家へと帰り、浩平が帰ったあとであたしは、明日の荷物を作ったあとでさっさとベッドにみを投げた。
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