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そればかりではない。
次元の歪みもそこらで出始めて、この世界の者ではないモノ達も現われ始めたのである。
かくして赤松楼――楼閣の側に生える赤松の木に由来する、は混沌の縮図と相成ったのである。
そんな街に貴一は朋友の音無音音(おとなしねおん)と共に現われた。
音無音音は一流の情報屋である。
焦げ茶色の髪をショートにし、黒縁の眼鏡をかけた知的な女性で、今までに貴一と組んで数々の裏の仕事をこなしてきた。
貴一とは所謂男女の関係はあるものの、それ以上の関係には発展していない。
どうにも何らかの超自然的な力が二人に作用している様である。
貴一なんかは、結婚して毎日音音の豊乳を愛でたい気持ちがあるのだが、告白しようとすると妨害が入る。
それは音音も同様だ。
告白されるなら受けてもいい、という気持ちはあるのだが、やはり妨害が入る。
かくして二人は友達以上恋人未満の関係のまま仕事をしているのであった。
そんな二人がライバル組織の妨害に遭って、官憲に追われる身となり、辿り着いたのが赤松楼である。
貴一は裏稼業の知識を活かし、整体院を営み、音音はフットワークを活かして仕事の情報を集めて、貴一に紹介する。
二人は立派なこの不自然な街の住人と化したのである。
そうすると、自然と人脈も出来始める。
音音には街の実力者との繋がりが。
そして、貴一には…。
コンコン。
整体院のドアをノックする音が聞こえる。
こんな雨の日に何処の物好きが俺の治療を受けたがってるんだ?
商売人にあるまじき考えを抱きながら、貴一は返事をする。
「開いてるぜ?」
「ならば邪魔をするよ」
入ってきたのは白髪のショートボブに暗い赤色の瞳を持つスーツ姿の麗人。
今日は黒のベレー帽をお召しらしい。
左手には手提げ袋、右手には和傘。
和傘を玄関の脇に立てて、貴一を見てニコリと微笑む。
見た感じ、中性的なルックスの男性と思われるが、れっきとした女性である。
この白髪のお姉さんは何故か男装を好むのである。
そして、手提げ袋から酒瓶とタッパーを取り出して、テーブルに置く。
「お袋殿がね、漬物を送ってきたんだ。是非キイチと食べたくてね。良き漬物には良き酒が付き物だろ?さぁ、付き合え」
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