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…俺、なんで此処にいるんだろう。
マグカップからもくもくと上がる湯気を蓮はぼんやり見つめながら、そんな事を思った。
カップの中身はココアだ。
顔がびしょ濡れで寒い思いをしたのではないかと俺を気遣ってか、オーナーが熱々をいれてくれた。
しかし、その好意に蓮は苦笑いを浮かべる。
(…俺、猫舌なんだよなぁ。)
それでも向かいに座るオーナーが早く飲めと言わんばかりに俺を見てくるから、俺は仕方なしにそっと口を付けた。
(……熱っ!!)
思わず声が出そうになったところを我慢した。
舌がじんわりと焼ける感じがして、俺は耐えるように目を瞑った。
この感じだと、冷めるまでにまだまだ時間がかかりそうだ。
カップで揺らいでいるココアに視線を落としながら、蓮は思った。
「…先程はありがとうございました。」
「…あ、いえ!とんでもないです!!」
ココアに落としていた視線を慌ててオーナーに向けた。
丁寧な接し方に知らずの内に緊張する蓮。
元々こういう雰囲気は苦手だ。
ただ不本意な理由で絡まれていたのが許せなくて助けただけであって、別になんの見返りもいらなかった。
そもそも貴重な放課後を純吾の為になげうっておきながら、純吾が先に帰るとはどんな了見だ。
…まぁ、先に帰れといったのは紛れもなく自分なんだが。
正直、早く帰りたい。
寮生活だから何かとうるさいし、こんな風に知らない人と知らない空間で話すのは俺にとってあまり気持ちいいものじゃない。
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