ファーストキス

3/9
前へ
/42ページ
次へ
「…ほら、千歳。お礼をちゃんと言いなさい。」 「あ、ありがとうございました…。」 オーナーに促され、か細い声でお礼を言う"千歳"に蓮は苦笑を浮かべて頷いた。 …この子、大丈夫だろうか。 なんだか気弱そうで、また絡まれそうだ。 「申し遅れましたが、オーナーの中川千里(ナカガワセンリ)といいます。」 「…あ、俺は赤里蓮、です。」 つられるように自己紹介を済ませた蓮は千里を真っ直ぐ見つめる。 しかし、蓮の名前を聞いて目を丸くした千里に、蓮は首を傾げた。 「……あなたが…。」 「――え?」 千里の言葉に蓮は引っかかりを覚えた。 品定めするかのように、じろじろと視線が注がれることに、違和感を感じた蓮。 …この人、俺のこと知ってるのか? 居心地の悪さを覚えて、思わず立ち上がった。 「お、俺…っそろそろ帰ります!」 「もう帰るのですか?遠慮などしなくていいのですよ?」 「い、いえ!失礼しました!」 背中に冷や汗をかきながら蓮は珍しく目線を泳がせた。 一刻も早くここから出ないといけない気がする! そんな予感がしたのだ。 蓮は軽く頭を下げてから、鞄を肩に掛けて出口へと駆け寄った。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

73人が本棚に入れています
本棚に追加