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「…ほら、千歳。お礼をちゃんと言いなさい。」
「あ、ありがとうございました…。」
オーナーに促され、か細い声でお礼を言う"千歳"に蓮は苦笑を浮かべて頷いた。
…この子、大丈夫だろうか。
なんだか気弱そうで、また絡まれそうだ。
「申し遅れましたが、オーナーの中川千里(ナカガワセンリ)といいます。」
「…あ、俺は赤里蓮、です。」
つられるように自己紹介を済ませた蓮は千里を真っ直ぐ見つめる。
しかし、蓮の名前を聞いて目を丸くした千里に、蓮は首を傾げた。
「……あなたが…。」
「――え?」
千里の言葉に蓮は引っかかりを覚えた。
品定めするかのように、じろじろと視線が注がれることに、違和感を感じた蓮。
…この人、俺のこと知ってるのか?
居心地の悪さを覚えて、思わず立ち上がった。
「お、俺…っそろそろ帰ります!」
「もう帰るのですか?遠慮などしなくていいのですよ?」
「い、いえ!失礼しました!」
背中に冷や汗をかきながら蓮は珍しく目線を泳がせた。
一刻も早くここから出ないといけない気がする!
そんな予感がしたのだ。
蓮は軽く頭を下げてから、鞄を肩に掛けて出口へと駆け寄った。
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