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「お迎えにあがりました、お姫様。」
葵さんはまるで何かの童話の王子様みたく、手を差し伸べて頭を下げる。
そんな動作まで絵になってしまうんだから、不思議だ。
「…お姫様じゃないっすけどね。」
俺がぶっきらぼうにそう言うと葵さんは"それは失礼"と肩を竦めて差し伸べていた手を引っ込めた。
なんだか、調子が狂うな。
蓮はがしがしと頭を掻いて葵に視線を送る。
「で、何か用事ですか?」
「答えを聞こうと思って。」
「もうですか?」
眉を寄せた蓮に、葵は対照的に爽やかな笑みを浮かべる。
「蓮はもう、答えを出してると思ったんだけどなぁ。蓮だって、そうじゃなきゃ走ってここまで来ないでしょ?」
見透かしたような笑みを俺に向けてくる葵さんに、何故か俺は悔しくなって目線を逸らした。
全部お見通しってわけだ、本当、調子狂うよ。
「わかってるなら、行きましょうよ。」
「オーケー、車に乗って。」
鞄を肩に掛け直して俺は葵さんの横を通り過ぎた。
我ながら強気な言い方だと思ったが、もう決意したという表れだった。
葵さんはくるくると車の鍵を指にかけて回し、嬉しそうに笑った。
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