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意気込んで車に乗ったはいいものの。
…何コレ。どういう事なの。
「………、」
沈黙が続く車内に、蓮は居心地の悪さをひしひしと感じていた。
葵さんは運転に真剣で何も話を振ってこない。
そういえば、昨日送ってもらった時も無言だったっけな。
葵さんって運転になると無言になる質なのか?
そんなことを考えながら知らず知らずの内に葵さんを見つめていた。
やがて信号は赤になり車がゆっくりと停止する。
「…どうしたの?そんなに俺のこと見つめて。」
「―――へ?」
葵さんの横顔が苦笑を覗かせている。
俺はハッと我に返って前に向き直った。
「い、いや!別に何でもないっす!」
「何~?もしかして俺に惚れちゃった?」
「は!?違います!てか、近いってば!」
信号が赤なのをいい事に、葵さんは助手席の椅子に手を回して俺に迫ってくる。
近い!怖い!何なんだよコレ!
俺は視線を泳がせながら必死に葵さんから逃れる。
早く、信号変わってくれ!!
「―あ、ほらっ!信号変わった!葵さん!」
「えー?ちゅーしてくれたらいいよ。」
「な、にを言ってんですかー!」
―バッチーン!!
「…ひどいよねぇ。俺のこの美しい顔を躊躇いもなく殴るなんて…。」
渋々と俺から離れハンドルを握り直す葵さん。
その横顔は見事に俺の手形が跡を残していて痛々しかった。
…でもしょうがないだろ。またキスされるなんて御免だよ。
「あ、こんなことしてる場合じゃなかった。」
「………。」
こんなことって。
無駄にドキドキした俺が馬鹿みたいじゃないか!
キッと目線を鋭くさせて葵を睨む蓮とは正反対に、ニコリと目を細めて葵は笑う。
「今更だけど、蓮はGimmickの一員になってくれるのかな?」
本当に今更だな、と思った。
そういう意志がなきゃここにいるわけないのに。
俺は葵さんの顔を見るのが何故か照れくさくて前を向いていた。
「よろしく、お願いします…。」
「こちらこそ、よろしく。」
葵さんが満面の笑みを俺に向けているのが視界の隅に映った。
アクセルをぐっと踏み込んで、車は軽快にスピードを上げていく。
なんだか新しい世界に踏み込むような気分で心が不思議と弾んでくる。
楽しみになってきた、蓮は心地いい車内の中で緩やかな笑みを浮かべた。
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