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「スタッフは裏口から入るんだ。」
Gimmickに着いて車から降りると、葵さんに案内される。
裏口へと続く脇道を、葵さんの背中を追いかけながら進んでいく。
「たっだいま~!新人君のお出ましだよー!!」
意気揚々と声を張り上げて裏口の扉を開いた葵さんに若干驚いた。
この人は、いつもこんなテンションなんだろうか…。
どうやら裏口は厨房に直接繋がっているみたいだ。
厨房で仕込みをしていた千里と千歳は派手な葵の登場の仕方に慣れているのか大して驚かなかった。
しかし"新人のお出まし"という言葉には引っかかるのか揃って怪訝な顔をする。
葵は未だに自分の後ろに隠れている新人に視線を送った。
「ほら、隠れてないで挨拶しなよ。」
少しぎこちなく葵の後ろから顔を覗かせた少年に、2人は目を丸くした。
「…ど、どうも…。」
蓮の恐る恐るの挨拶が響いた。
千里はゆっくり立ち上がり蓮へと歩み寄る。
その表情はまだ驚きを滲ませていた。
「…ここで働く決意をしてくれたのか?」
千里さんの真っ直ぐな瞳に、人柄が表れていると思った。
周りの人から慕われ尊敬されている、気高くて完璧な人。
俺は、そう感じた。
「…はい、よろしくお願いします。」
もっと、なんて言うか…
かっこいい事を言えたらと思ってたんだけど、この一言しか出て来なかった。
それでも蓮の思いは十分通じたのか、千里の表情に微かに笑みが宿る。
…千里さんって、こんな風に笑うんだ。
初めて見た気がする千里の笑顔に、蓮は引きつけられるように魅入った。
「ありがとう。蓮くん、君が仲間に入ってくれて本当に嬉しいよ。君は、Gimmickの一員だ。よろしく頼むよ。」
その言葉がすごく嬉しくて、何でこんなに嬉しいのか自分にもよくわからなかった。
千里さんの後ろにいた千歳と目が合うと、千歳もふわりと笑みを浮かべた。
俺がGimmickに来たことを祝ってくれてるような気がして、俺も満面な笑みを返した。
「―……、」
その千歳の笑顔が千里さんの笑顔とだぶって一瞬固まった。
……なんか、似てたな。
そんな事を思ったが、葵さんの祭りごとのような声にかき消される。
そのテンションの上がりっぷりが気持ちよくて、俺はだらしないくらいに顔を弛ませて笑った。
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