蜘蛛ノ章

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蜘蛛はひとつ瞬きして言う 「先祖が受けた恩を遠い子孫だからといって 誰が返すのを止めましょう」 「…なんとまぁ忠義深い虫なことだ」 男は笑って踵を返す 「じゃあな蜘蛛。せいぜい元気でな」 × × × × × × 「じゃあ僕の家が至って平凡なのは、 その蜘蛛のせいって事?」 「お陰と言えお陰と」 仁平の男が煙管を吹かしながら答える。 「でもどちらかと言うと 僕の家がそんな昔高貴な身分だった方が意外だったかな」 「それは分からんぞ。 蜘蛛にとっちゃ自分の巣から『出ていく』のは自分の子供位だからな。 その姫の家から『出てきた』人間全員に子蜘蛛を送ってたなら、お前の先祖は唯の商人か家来かも知らんぞ」 「…貴方って人の夢をあっさり壊すよね」 「気にするな。唯の趣味だ」 × × × 今日もどこかの庭先で 蜘蛛が異形の虫を捕る。                                      
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