蜘蛛ノ章

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――我が家はいたって普通の家庭だ。 学校からの帰路、赤蜻蛉に追い掛けられながら葦紫啓人はそう思った。 父親母親姉自分の四人暮し。生活は中の上程度、両親は大きな喧嘩も殆どせず、つい先月同居していた祖母が天寿をまっとうした。98歳だった。 文句を付けるでもない普通の家庭だ。これだけ平凡過ぎるのもどうかと思うが。 玄関と植木の間に今日も小指大の蜘蛛が巣を張っている。 巣には蜻蛉と蝿が数匹つづ掛かって死んでいる。 「…ただいまー」 啓人はけだるそうに家族に声を掛けて玄関の戸を閉めた。 × × × × 甚平の男が玄関先に巣を掛けた小指大の蜘蛛を見詰めていた。                                                   
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