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「なあ蜘蛛、」
男の瞳には蜘蛛の糸に絡まる無数の青い蛾と、赤い蝶が映っていた。
「何故――こんな所でそんな物を捕らえているんだ」
蜘蛛はそろそろと向きを変えながら、
「お話しすると長くなります、お時間はよろしいでしょうか?」
「ああ構わぬ」と男は言う。
「それはそれは昔の事、ある雨の日に一匹の子蜘蛛が地面に落ちて震えておりました。
そこに美しい姫が現れてその清らかな御手で温め、そっと木の上に離しておやりになったのです」
はたはたと、
吸い込まれるように青い蛾が糸に付いた。
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