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「子蜘蛛は姫にいたく感謝してこの身尽きる限り、
姫の家に降り懸かる《凶蛾》を捕り続けましょうと申し上げたのでございます」
青い《凶蛾》が、もがく間もなく蜘蛛の糸に巻かれて動けなくなる。
「しかし、お優しい姫はおっしゃったのでございます。
『《凶蛾》ばかり食べておったら腹が冷える。糸の隙間を通り抜けられぬ程大きな《吉蝶》はそなたへの褒美』と。
子蜘蛛はやがて母蜘蛛となり
姫の家から誰かが嫁ぐ度に子を送りました」
お察しの通り、と
「この家は姫の家系の者であり、私はその子蜘蛛の子孫であります」
鱗紛を撒きながら小さな赤い《吉蝶》が蜘蛛の巣の隙間を通り抜けて家に吸い込まれた。
男は薄く笑って尋ねる。
「たが助けられたのは、べらぼう昔のお前の祖母の事だ。
お前にはもう恩を返す義務などない筈じゃないのか」
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