0人が本棚に入れています
本棚に追加
蜘蛛はひとつ瞬きして言う
「先祖が受けた恩を遠い子孫だからといって
誰が返すのを止めましょう」
「…なんとまぁ忠義深い虫なことだ」
男は笑って踵を返す
「じゃあな蜘蛛。せいぜい元気でな」
× × × × × ×
「じゃあ僕の家が至って平凡なのは、
その蜘蛛のせいって事?」
「お陰と言えお陰と」
仁平の男が煙管を吹かしながら答える。
「でもどちらかと言うと
僕の家がそんな昔高貴な身分だった方が意外だったかな」
「それは分からんぞ。
蜘蛛にとっちゃ自分の巣から『出ていく』のは自分の子供位だからな。
その姫の家から『出てきた』人間全員に子蜘蛛を送ってたなら、お前の先祖は唯の商人か家来かも知らんぞ」
「…貴方って人の夢をあっさり壊すよね」
「気にするな。唯の趣味だ」
× × ×
今日もどこかの庭先で
蜘蛛が異形の虫を捕る。
最初のコメントを投稿しよう!