替わった男

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「八代将軍吉宗の話だよ。もう、再放送でしかやってないけど。」 「誰が将軍だと?」 「徳川吉宗だよ。」 「………!?」 耳の奥がきいいんと鳴った。 何か思い出せそうなのに、その先がぼやけている。 「あっ、そうだ。これやって。」 土井は扇を手にして 「予の顔を見忘れたか」 ぴしゃりと扇を叩いた。 扇を手渡されて土井の真似をしてみた。 「…はは。上様。」 土井はテーブルに手を付いて平伏した。 「カッコ良すぎじゃん。本物みたいだ」 土井はひとりではしゃいだ。 「まさか……だよね。」 徳子はぽつり呟いた。 「これから、ヒデの家に行こうよ。」 徳子が言った。 「いいね。いいね。」 土井も喜んだ。 私は扇子を鞄にしまい徳子の好きにさせた。 三人は席を立ち、小田秀忠の家に行く事になった。 家に着くと徳子は秀忠の部屋に案内しろと急かした。 日中誰もいない家は、真夏の暑さで煮えていた。 自室に入ると 「暑い!エアコンのリモコンはどこだ。」 と、土井と徳子が騒ぎだした。 「分からないが、そこに有るのがそうか?」 ネクタイを取りながら本棚に差してある固い板みたいなものを渡した。 「なんで本棚に?」 暑いのでついでにYシャツも脱いだ。 「ちょっと、いくら幼なじみでも、女性の前で脱ぐな!!」 頭を叩かれた。 「暑いのじゃ。鬱陶しい着物だな。」 嫌々Yシャツを羽織った。 暫くするとエアコンが効きだし、冷風が流れだした。 「そうだった。」 徳子は机の引出の中を探しだした。 「これだ。これ。」 日本史の資料集。 滅多に学校で使わないので大概机の奥に眠っている。 「ちょっと失礼。」と、徳子は私の髪の毛をひっつめて縛ってみた。 徳子は本を片手にこちらをちらちらと何度も見た。 「似てない。名前だけか…」 土井は徳子が何をしたのかさっぱり分かってない様だ。 私もだが…。 「見る?徳川家初代将軍からの人物画。」 徳子は本を私と土井の間に置いた。 将軍家…?どこにその様な大名がおる。 「ここ、だよ。二代将軍徳川秀忠。」 じっと徳子がこちらの顔を見つめている。 「聞いた事くらいあるよね。」 「歴史は苦手だ。」 扇子の家紋と同じ柄が描かれている。
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