分かる男

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分かる男

期末テストも静かに終わり、二週間後は夏休みに入る。 土井は夏休みの言葉に目を輝かせはしゃいでいた。 あれから大野たちが静かだった。 教室に入ると睨まれたが、別段何もされなかった。 土井はその静けさが不気味だと言っていた。 そして、私は平成の高校生活を楽しみ始めていた。 このダラダラガヤガヤの賑わいが面白く、見るものが全てがワクワクした。 ゲーセンとやらで遊び、プリクラも撮った。 ラーメン屋、牛丼屋、お好み焼き屋、焼き鳥屋、肉屋のコロッケ、宅配ピザ。 簡単に手に入る。 不思議な世の中だ。 昨日は土井に凄いものを見せて貰った。 土井の大好きなバンドなる謡う人を見に行こうと誘われ「武道館」に出かけた。 バンドの謡はさっぱり分からず、取り敢えず、周りに合わせた。 土井に見た感想を訊かれたが、ただ耳が痛かった。 でも、軽い疲労感が気持ち良い。 「楽しめたぞ。」 と、土井に言った。 土井は喜んで 「また、チケット取るからさ。」 と、いつものはしゃぎ顔になった。 「武道館」の重厚な門を出るとお堀が見えて来た。 その掘りに掛かる狭い道に人がゆるゆると歩く。 「ここの桜って、凄く綺麗なんだぜ。夜のライトアップが最高。石垣とマッチしてさ、やっぱお城って感じ。」 「城…?」 「元江戸城だもの。」 「江戸…!?」 その言葉が引っ掛かった。 「城らしきものはないようだが?」 「今は皇居になってるから……!?普通知ってるよね。ヒデ。馬鹿にしてる。俺のこと。」 「すまん。」 「皇居とは?」 「天皇陛下が住んでるとこ。って、また馬鹿にしてる?」 「京は如何したのか?」 「もう100年以上東京に……ねぇ、俺に歴史の試験してるの?」 「すまん。土井と話すと面白いぞ。」 「なら許す。」 私は掘りに突き出た石垣を見つめた。 江戸か……。
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