分かる男

2/12
前へ
/31ページ
次へ
夏休みに入る三日前、毎年恒例の「文化祭」が始まる。 土井の話では5月から準備をするのだそうだ。 今まで気付かなかったが、私と土井のクラスは女子がいない。 他のクラスは半数ずついるのに…と、土井が怒っていた。 怒った理由は、彼女が出来ない。 男臭い。 華がない。 勝手な言い分を披露した。 そう言えば、徳子は別のクラスだった。 私はその「文化祭」なるものを見たことない。 どうすればよいか土井に悟られないように訊いてみた。 「今回はメイド喫茶に決まったじゃん。忘れないでよ。ヒデはメイドさんに決定してるんだからね。」 ニヤニヤしながら紙袋から黒いものが出て来た。 「これ借りるの大変だったんだから、テレビ局に頼み込んだんだぜ。」 「メイドさん?」 「この前アキバで見ただろ。」 お帰りなさいませ。ご主人さま。 と、言っていたあの女達か……。 「なぜだ。なぜ私がやるのだ。」 「決める時にジャンケンに負けたからさ。」 土井は私に黒いミニドレスを当てた。 白いエプロンと言うのが付いていた。 「これもね。履いてね。黒のオーバーニーソックス。」 土井がさらにニヤニヤしている。 「大丈夫。ヒデはすね毛が少ないから。」 土井の喜びようが無性に腹立たしい。 「女子の格好など一生の恥ではないか。」 「ご立腹も明日になれば大人気ものですよ。」 土井はいつものはしゃぎ顔になった。 私のようなデカい男が女に化けて気味が悪くないのだろうか? 平成の世は摩訶不思議である。 次の日、女デビューである。 クラスのうち、10人がメイドである。 土井は裏方の厨房にいた。 メイド衣装に着替えた感想は?股が涼しいこと。 メイドは妙なメイクをして女の子用のカツラもつけられた。 開店前に打合せでクラスの集合がかかった。 メイド役は私を除いては皆小柄だった。 土井が楽しそうにこちらを見た。 大野の小馬鹿にした顔と目があった。 「やっぱ、似合う。」 「はっ?」 「小田君は似合うと思ったんだよね。」 文化祭リーダーの榊原が側から小さく声をかけてきた。 「皆さん、今日1日お客様に笑顔で接客して下さい。宜しくお願いします。」 その後、細かい指示が飛んだ。 いよいよ人生初の文化祭である。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加