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夏休みに入る三日前、毎年恒例の「文化祭」が始まる。
土井の話では5月から準備をするのだそうだ。
今まで気付かなかったが、私と土井のクラスは女子がいない。
他のクラスは半数ずついるのに…と、土井が怒っていた。
怒った理由は、彼女が出来ない。
男臭い。
華がない。
勝手な言い分を披露した。
そう言えば、徳子は別のクラスだった。
私はその「文化祭」なるものを見たことない。
どうすればよいか土井に悟られないように訊いてみた。
「今回はメイド喫茶に決まったじゃん。忘れないでよ。ヒデはメイドさんに決定してるんだからね。」
ニヤニヤしながら紙袋から黒いものが出て来た。
「これ借りるの大変だったんだから、テレビ局に頼み込んだんだぜ。」
「メイドさん?」
「この前アキバで見ただろ。」
お帰りなさいませ。ご主人さま。
と、言っていたあの女達か……。
「なぜだ。なぜ私がやるのだ。」
「決める時にジャンケンに負けたからさ。」
土井は私に黒いミニドレスを当てた。
白いエプロンと言うのが付いていた。
「これもね。履いてね。黒のオーバーニーソックス。」
土井がさらにニヤニヤしている。
「大丈夫。ヒデはすね毛が少ないから。」
土井の喜びようが無性に腹立たしい。
「女子の格好など一生の恥ではないか。」
「ご立腹も明日になれば大人気ものですよ。」
土井はいつものはしゃぎ顔になった。
私のようなデカい男が女に化けて気味が悪くないのだろうか?
平成の世は摩訶不思議である。
次の日、女デビューである。
クラスのうち、10人がメイドである。
土井は裏方の厨房にいた。
メイド衣装に着替えた感想は?股が涼しいこと。
メイドは妙なメイクをして女の子用のカツラもつけられた。
開店前に打合せでクラスの集合がかかった。
メイド役は私を除いては皆小柄だった。
土井が楽しそうにこちらを見た。
大野の小馬鹿にした顔と目があった。
「やっぱ、似合う。」
「はっ?」
「小田君は似合うと思ったんだよね。」
文化祭リーダーの榊原が側から小さく声をかけてきた。
「皆さん、今日1日お客様に笑顔で接客して下さい。宜しくお願いします。」
その後、細かい指示が飛んだ。
いよいよ人生初の文化祭である。
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