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午後4時に閉店になった。
人生でこれ程人の為に働いた事はない。
爽快感と脱力感が同時にきた。
私はどかりと客席に腰を下ろした。
厨房にいたものも疲れ果てて誰も口を聞かない。
リーダー榊原が言った。
「取り敢えず、ここを片付けたらラーメンを喰いに行こう。」
皆片手を挙げた。
無言の意思表示だった。
その翌日。
朝から廊下に長蛇の列が出来た。
女の子たちはキャーキャーいいながら廊下にいた。
開店と同時に人がなだれ込んだ。
二日目になるとメイドのご指名も出てきた。
私も呼ばれた。
が、オタク男からだった。
「いらっしゃいませ。何がよろしいか?」
「昨日は写メが撮れなかったので、撮ってもよいで…ござるか?」
私はそのもの言いにムッとした。
「好きにいたせ。注文は如何いたす?」
「コーラとワッフルでクリームも付けてで、お願いでござる。」
こんなオタク男を3組も接客した。
このオタク男たちは「ツンデレ」と言うものが好きなのだそうだ。
また、不思議なものを見た。
昼近くになった頃、可愛い女子に声をかけられた。
「ヒデ先輩。」
瞳は薄茶色、唇は桃色、髪は茶色で肩より長く、笑うと目尻が少し垂れる。
なんとも可憐で華奢な女の子が立っていた。
「忘れられたかな?マリアです。」
この女子が「マリア」か……。
私は軽く固まった。
「い、いっ、いらっしゃいませ。」
笑顔が引きつって、例の嫌みな笑いになった。
「大人気ですよ。ヒデ先輩。」
「ははははっ。この様な格好で失礼いたす。」
大野でなくとも好きになるは、普通の男子なら。ひとりで焦っていた。
「友達がもうすぐ来るので、ここで待っていても大丈夫?」
「大丈夫で、…」
厨房の奥から鋭い視線が背中に感じた。
振り向くと大野だった。
早くここから去らねば。
「ご注文は、如何いたす?」
「これは?どんなもの?」
メニューを指差した。
自然に体が前のめりでマリアの顔に近くなった。
「普通のたこ焼きだが。それにするか?」
こちらを上目使いに見て、
「オレンジジュースにします。」
と、言った。
私はドキリ胸がなった。
「畏まりました。」
必死で歩いた。
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