分かる男

4/12
前へ
/31ページ
次へ
午後4時に閉店になった。 人生でこれ程人の為に働いた事はない。 爽快感と脱力感が同時にきた。 私はどかりと客席に腰を下ろした。 厨房にいたものも疲れ果てて誰も口を聞かない。 リーダー榊原が言った。 「取り敢えず、ここを片付けたらラーメンを喰いに行こう。」 皆片手を挙げた。 無言の意思表示だった。 その翌日。 朝から廊下に長蛇の列が出来た。 女の子たちはキャーキャーいいながら廊下にいた。 開店と同時に人がなだれ込んだ。 二日目になるとメイドのご指名も出てきた。 私も呼ばれた。 が、オタク男からだった。 「いらっしゃいませ。何がよろしいか?」 「昨日は写メが撮れなかったので、撮ってもよいで…ござるか?」 私はそのもの言いにムッとした。 「好きにいたせ。注文は如何いたす?」 「コーラとワッフルでクリームも付けてで、お願いでござる。」 こんなオタク男を3組も接客した。 このオタク男たちは「ツンデレ」と言うものが好きなのだそうだ。 また、不思議なものを見た。 昼近くになった頃、可愛い女子に声をかけられた。 「ヒデ先輩。」 瞳は薄茶色、唇は桃色、髪は茶色で肩より長く、笑うと目尻が少し垂れる。 なんとも可憐で華奢な女の子が立っていた。 「忘れられたかな?マリアです。」 この女子が「マリア」か……。 私は軽く固まった。 「い、いっ、いらっしゃいませ。」 笑顔が引きつって、例の嫌みな笑いになった。 「大人気ですよ。ヒデ先輩。」 「ははははっ。この様な格好で失礼いたす。」 大野でなくとも好きになるは、普通の男子なら。ひとりで焦っていた。 「友達がもうすぐ来るので、ここで待っていても大丈夫?」 「大丈夫で、…」 厨房の奥から鋭い視線が背中に感じた。 振り向くと大野だった。 早くここから去らねば。 「ご注文は、如何いたす?」 「これは?どんなもの?」 メニューを指差した。 自然に体が前のめりでマリアの顔に近くなった。 「普通のたこ焼きだが。それにするか?」 こちらを上目使いに見て、 「オレンジジュースにします。」 と、言った。 私はドキリ胸がなった。 「畏まりました。」 必死で歩いた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加