分かる男

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一時間などあっと言う間に過ぎた。 土井は氷の件で動き廻っていた。 私は榊原に声をかけた。 「トイレ休憩します。」 「ああ、なるべく早く帰ってきて、後片付けしたいからさ。」 「ああ…。」 と、曖昧な返事をして教室を出た。 廊下の隅にあるトイレを素通りし、特別教室のある渡り廊下を走った。 その廊下の一番奥の扉を開けると非常階段がある。 階段を下って校舎の裏を廻ると体育館の裏手に出た。 午後4時過ぎ、陽は西に傾きかけて体育館裏手は日陰になっていた。 でも、まだ暑い。 左手先に涼しそうな林が続いていた。 たしか先は公園だった。 めったに人が通らないのか、夏草が茂っていた。 「あっ…暑い。」 私は被っていたカツラを脱いだ。 着替えてくれば良かったか…。 この格好で喧嘩か…。笑われるの…。 暫くすると夏草を踏む足音がした。 「よう、ヒデ。逃げなかったな。」 大野と数人の男がそこに現れた。 人が増えてる。 そこまでして私を潰しだいのか、こやつらは。 「喧嘩は好きではないが、気に入らないと言うのなら仕方ない。」 カツラを下に置いた。 「悪いな。この様な格好で。」 わざと挑発した。 二三発殴らせて、ぶっ倒れてやれば終わる。 負けるが勝ちだ。 一発目は入れさせて頂く。
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