分かる男

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大野の合図でひとりの男がこちらに向かって来た。 どうする?腹か、顔か、蹴りか、殴るか…。 相手は勢いよく殴りかけてきた。 それをスルリと避けて足を引っ掛けたら勝手に倒れ込んだ。 「あっ、悪い。」 引っ掛けるつもりが無かったのに、反射的にやってしまった。 「んだ!!その言い方!!」 立ち上がると無鉄砲に腕を振り回してきた。 これに殴られてもな。 体が軽く避けてしまう。 私は武術が下手でよく怒られていたのにな。 ひとりくらいは倒すか…。 無鉄砲に振り回す手を掴むと投げ飛ばした。 相手は地面に倒れて背中を押さえて唸っていた。 「一斉にやれよ。」 大野の声がとんだ。 これで、負けてやる。 一発、二発、三発と続けて殴られた。 やはり遣られるのは痛いな。 そろそろ倒れてもいいか。 誰に訊くわけでもなく呟いた。 かなり殴らさせてやった。 倒れそうになった時、背中に声が飛んだ。 「ヒデ!!」 振り向くと土井が走って来た。 「来るなと言ったはず。」 私の声など耳に入らず、土井は凄い勢いで大野たちに殴り込んだ。 計画が水の泡じゃ。アホが…。 私はふっと笑った。 「倒れるまでやりましょう。」 それが喧嘩です。 誰かが言ってたな。 「仕方ないの。」 私も土井と一緒に大野たちに向かっていった。 さすがに人数の差で体力負け、土井と私は夏草の上に仰向けに倒れた。 「そろそろ仕上げましょうか?」 大野の不気味声が聞こえた。 大野の靴がチラリと見えた。 その時、聞き慣れない声がした。 体が痛くて、顔が見えない。その声が誰だかわからない 。 「何してんだ?大野。」 「あっ、木下さん。なんでマリアちゃんまでここに。」 「こいつ、俺の妹って言ってなかった?」 「ええっ、いつから?」 「今年の春からだよ。親が再婚したんだよ。」 「ええっ、まじですか?」 よく見えないが、大野が焦っている。 木下さんとは誰か?
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