分かる男

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疲れたは。 木下さん……どうでもよいは。 段々と意識が遠退いていった。 倒れるまでやりましょう。 それが喧嘩です。 薄桃色の花柄の小袖を着た綺麗な女の子が腕を組んでこちらを見ていた。 幼い私より少し背が高い。 少し前、私は京に登って来た。 人質になるために。 綺麗なお城の庭園で二人は睨み合っていた。 「すみません。そのつもりでそちらを見たのではありません。」 私は面倒くさく、さっさと頭を下げで立ち去ろうとした。 「それでも男ですか?」 「それを言うなら、あなたは?いや、失礼致しました。」 本当に面倒なので、一礼して歩き出した。 「待ちなさい。まだ、話は終わってない。」 と、私は腕を掴まれた。 「謝ったではありませんか?まだ何か?」 「その様に逃げてばかりでは何も解決しないのではありませんか。」 私はその真っ直ぐな言い方に胸を打たれた。 「逃げているのではありません。私のような者が何か言っても始まらないのです。」 「人質ですゆえ。」 「同じような者ではありませんか?それでも自分の言いたい事は言うべきです。」 「……。」 「それにあなたは人質なのでしょうか?。」 「はあ?」 「確かめたのですか?」 彼女はこちらをじっと見ていた。 確かに誰かへ訊いた事はなく、勝手に自分で思っているだけだった。 「ならば一緒に言って訊いてこようではありませんか?」 「……。何故そこまで。」 私は呆れて笑い出した。 「ちゃんと笑えるではないですか。絶望した顔をしていたのでね。」 絶望…。 確かに私には何も無い。ただ、言われるままに従うだけである。 「あなたは誰なのです?」 「私は江と申します。」 「…江どの…」 ピシャリと額を叩かれた。 「何時まで寝てるの!!バカっ!!」 「痛いではないか。江!!」 「えっ?」 私はうっすらと目を開けると徳子がしゃがみ込んでこちらを見ていた。 「徳子どの…か。」 私は自己が誰か分かった。 分かってしまった。 「私はまだここに居るのだな。」 見上げると夕闇が近づいていた。 「ダンスパーティーが始まってるよ。」 徳子は小さく笑った。
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