替わった男

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替わった男

同じ制服を着た若者がゾロゾロと長い塀越しを歩いていた。 車と言う便利な乗り物が道の真ん中の大通りを前後忙しなく走っていた。 雑音がやたらに多く耳に痛い。 高い建物が周りを囲っていた。暗い色だ。 制服はYシャツの白で夏の日差しを反射していた。 Yシャツは暑い。 特に首に巻いてるネクタイが暑い。 袴のようなズボンも窮屈だった。 夏は袴を脱いで、大の字に寝るのが好きだった。 「また、その様な格好で……寝てしまっては風邪をひきますよ。」と、団扇で風を送り込んでくれた。 「誰だったか…。」 「えっ、何?」 呟いた声が聞こえたか徳子が振り向いた。 とりあえず、意味なく笑った。 「嫌味か?馬鹿にされてる様だよ。」 と、肩を小突かれ、先をすたすたと歩いて行った。 「あっ!!嫁か…?」 記憶がふと蘇った。 そうだ。何ヶ月か前に私の所に「嫁」が来た。 「たしか……」 「嫁って誰だよ。」と、後ろから抱き付いてきた男がいた。 考え込んでいて不意に後ろを取られた。 「一週間のご無沙汰だな。小田秀忠くん。って、フルネームで呼ぶとやっぱ笑える。」 背中に抱きつきながら笑った。 「何奴、顔を見せろ。」 腕を掴むとするりと投げ飛ばした。 「いっ…てーだろ。いきなり…投げ飛ばす奴がいるか!!」 「何だ。土井ではないか。」 「……?」 それを見ていた徳子が慌てて駆け寄ってきた。 「あんた!?土井くんを投げ飛ばしたの?」 徳子は目を丸くしてこちらを見ている。 とっさに口から出た名前だったが、当たっていた。 「仕方あるまい。私の後ろに付くからだ。悪かったな土井。」 土井に手を貸し立たせた。 「変だよ。お前…」 「変か?」 「いつものとしちゃんって呼んでくれ。ヒデっ!!」 気持ちが悪いくらい抱きつかれた。 男はキライじゃないが、こいつはいかん。 そっくり過ぎる。 受け付けぬは……
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