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大きな正門を潜ると真四角に横長の建物が見えた。
土井が私の手を引いて、教室まで連れて行った。
「お前、ヒデか?」
「雰囲気が違わねー?」
その声に軽く笑ってやった。
「何だ、無愛想のヒデじゃんか。」
何人かがケラケラと笑った。
土井の案内によると私の席は土井の後ろらしい。
土井がバンと鞄で机を叩いた。
「としちゃん、いつもヒデにベッタリだな。久しぶりに会えて興奮気味か?」
聞かぬふりが一番だ。
体のデカい男がこちらを睨んだ。
慌てて横の窓を眺めると、夏の空が続いていた。
「ヒデちゃん、久しぶりなのに無視かよ。」
あのデカい男が近づいてきた。
聞かぬふりじゃ…。
太い腕がネクタイを引き上げた。
「どの面下げて来やがったんだ。お前二週間前の事覚えてるだろうな?」
記憶がないものを一週間、二週間も前のこと覚えてる訳なかろうが…こちらが訊きたいは!!
反射的にこのデカい男を睨んでしまった。
「大野、先生が来るぜ。」
「ちっ!!後でなヒデ!!」
大野が私から離れると先生と言う人が入って来た。
その男背丈は低く、親父どのの様にメガネを掛けてニコニコと笑っている。
「今日から期末テストです。午前中で終わりだけど街中をブラブラしないよう、さっさと帰るように。」
「へ~い」「は~い」と、適当な返事が教室に飛び交った。
「5分後から数学のテストします。」
それを告げると教室から出て行った。
「ヤバいよ、ヒデ。」
「何が?」
土井が捨てられた子犬のように泣きそうな顔を向けた。
「全然試験勉強してなかった…」
「私もだ。」
「お前は病み上がりだもんな。心中お察しします。」
「よいから、前を向け。」
テストとはなんじゃ…。本当に分けが解らぬ。
相変わらず、大野の視線が不気味だ。
土井によるとテストとは、前から紙が一枚廻ってきて、そこに書かれている問いを答えるというものらしい。
私に解けるのか?
不思議なことに勝手に手が動きすらすらと解答を書いている。
本当の小田秀忠がこの中に眠っているのではないかと思った。
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