20人が本棚に入れています
本棚に追加
店内は激しく賑やかだった。
笑顔を絶やさない女が仕切りと何かを言っている。
徳子があれこれと注文を言って、時々こちらに話しかけた。
「好きに致せ。」
訊かれてもさっぱり分からない。
「こっち、ヒデ。二階が空いてそうだぜ。」
土井の手招きで後に続いた。
「ひゃ~ぁ、一息ついた。」
土井はジュースのストローと言うのを口に加えながらしゃべり出した。
ちょっと暗がりの隅の席に三人は座った。万が一に備えてあまり目立たない場所にいた。
ハンバーガー、ポテト、ストローも初めてだったが、コーラと言う炭酸水は奇妙奇天烈だった。
不味いのか美味しいがよく分からない。が、慣れると喉越しが良かった。
「やっと暑さが無くなってきたかな。」
徳子は満足したらしく背もたれに寄りかかった。
「すまん…。暑かったな…。」
鞄から扇子を取り出し、広げて扇いだ。
「こんな物でも役に立つものだな。」
「へえー。ヒデ、立派な扇だね。日舞でもやりそうだな。」
「舞は出来ぬは。」
「京都のお土産?」
「中学の修学旅行の時の…?」
「……。」
「新京極辺り…。」
「……。京の伏見で頂いた。」
徳子と土井が顔を見合わせた。
「へえー。珍しい話だね。扇の事はよく分からないから。」
私は話題を変えようとぴしゃりと扇を閉じた。
「いい音だね。ちょっと見せてよ。」
徳子が手元を覗き込んできた。
「……。仕方ないか。走らせた詫びだ。」
徳子の手に扇子を載せた。
「うぉ~っ、意外に重い。漆が塗ってあるみたいにピカピカだよ。」
「高そう~だ。……!?」
土井が徳子の顔を見た。
「これって、あれだよね。」
「あれだよ…ね。」
二人が驚いた顔でこちらを見た。
「これさ…毎週うちのじいちゃんが観てるんだよね。TBS、赤坂サカスで買ったの。」
「はっ?」
「それとも、テレ朝。」
「いや?NHK?」
「違うよ。日光江戸村?」
「京都の太秦だよ。」
「お前たちが言っている意味が解らない。」
「だって、ここ見てよ。」
うっすらだが透かし彫りで家紋らしきものが付いていた。
歴史音痴でもこの家紋くらいは分かる。
テレビの時代劇で嫌と言う程観てきた。
「やっぱ、TBSより暴れん坊将軍の方がいいかな。俺的には。」
「何だ?それは。」
最初のコメントを投稿しよう!