替わった男

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店内は激しく賑やかだった。 笑顔を絶やさない女が仕切りと何かを言っている。 徳子があれこれと注文を言って、時々こちらに話しかけた。 「好きに致せ。」 訊かれてもさっぱり分からない。 「こっち、ヒデ。二階が空いてそうだぜ。」 土井の手招きで後に続いた。 「ひゃ~ぁ、一息ついた。」 土井はジュースのストローと言うのを口に加えながらしゃべり出した。 ちょっと暗がりの隅の席に三人は座った。万が一に備えてあまり目立たない場所にいた。 ハンバーガー、ポテト、ストローも初めてだったが、コーラと言う炭酸水は奇妙奇天烈だった。 不味いのか美味しいがよく分からない。が、慣れると喉越しが良かった。 「やっと暑さが無くなってきたかな。」 徳子は満足したらしく背もたれに寄りかかった。 「すまん…。暑かったな…。」 鞄から扇子を取り出し、広げて扇いだ。 「こんな物でも役に立つものだな。」 「へえー。ヒデ、立派な扇だね。日舞でもやりそうだな。」 「舞は出来ぬは。」 「京都のお土産?」 「中学の修学旅行の時の…?」 「……。」 「新京極辺り…。」 「……。京の伏見で頂いた。」 徳子と土井が顔を見合わせた。 「へえー。珍しい話だね。扇の事はよく分からないから。」 私は話題を変えようとぴしゃりと扇を閉じた。 「いい音だね。ちょっと見せてよ。」 徳子が手元を覗き込んできた。 「……。仕方ないか。走らせた詫びだ。」 徳子の手に扇子を載せた。 「うぉ~っ、意外に重い。漆が塗ってあるみたいにピカピカだよ。」 「高そう~だ。……!?」 土井が徳子の顔を見た。 「これって、あれだよね。」 「あれだよ…ね。」 二人が驚いた顔でこちらを見た。 「これさ…毎週うちのじいちゃんが観てるんだよね。TBS、赤坂サカスで買ったの。」 「はっ?」 「それとも、テレ朝。」 「いや?NHK?」 「違うよ。日光江戸村?」 「京都の太秦だよ。」 「お前たちが言っている意味が解らない。」 「だって、ここ見てよ。」 うっすらだが透かし彫りで家紋らしきものが付いていた。 歴史音痴でもこの家紋くらいは分かる。 テレビの時代劇で嫌と言う程観てきた。 「やっぱ、TBSより暴れん坊将軍の方がいいかな。俺的には。」 「何だ?それは。」
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