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女性は手を組んで祈っていた。
何を願う?
そんなものは分からない。もし分かっていたとしても知る必要なんてない。
叶わないと分かっているから祈る。淡い期待でしか無いから祈る。
叶いもしないのにただ祈る。
これしか出来ないから。
女性から涙がこぼれていた。
大粒、そして大量の。
声もあげずにただ涙を流して祈る。
彼は何も悪くない。
彼女も何も悪くない。
誰も悪くない。
だからこそ納得がいかないのだろう。
「何で…こうなっちゃったんだろうね…?」
女性はようやく言葉を発した。
返ってくる事の無い言葉。それもそうだ。
死んでしまったのだから。
何も悪くない2人は死んでしまった。
女性は今、墓前に立っている。花束を添えて。
来ていたのはその女性1人だけじゃない。
共に戦った戦友9人もそこに来ていた。
同じ戦友として。友達として。彼らもただただ黙って祈っていた。
それぞれ想う事はあるだろう。しかし、全員の一致した考えもあった。
何て無意味な戦いだったんだ。
と。
風が穏やかにふく。草木が気持ち良さそうに揺れる。
空も憎いくらいに青い。悲しい気分に満たされているというのに。
「帰りましょうか。」
女性はまた一言で区切る。
「もう良いのか…?シエナ。」
女性の名前はシエナと言うらしい。
「ええ。また来ますから…。」
シエナは空を見上げながら言った。
「そうか。」
彼はそれ以上何も言わなかった。聞く必要も無かったのだろう。
「それに…長時間祈ったところで2人は帰ってくる訳じゃないですから。」
若干自虐的になりながらシエナは言った。
「……。」
誰も声をかける事が出来なかった。何をいってあげれば良いのか分からない。
「私のせいだ…。うっ…わぁぁぁぁん!!」
冷静を保つのに必死だったシエナだが、遂にこらえきれなくなって崩れる。
お前のせいじゃないと誰もが言いたくなった。
「………。」
しかし、誰も何も言えなかった。お前のせいじゃないと言うのは簡単だ。でも、シエナが納得する訳がない事を言って何の意味がある。
だからといって他に思いつく言葉も無い。
シエナの泣き声がただ響くばかり。
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