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「相変わらず綺麗な音。」
話を続けながらも、此方の音に器用に反応してみせた長沼は、バイオリンを此方に寄越せと手招きする。
「はい、どーぞ。にしても、あんたらも小説好きだねぇ…。鴎外の史伝観には賛成だけどさ。やっぱり新書とか漫画とかのが読んでて楽しいと思うんだよねぇ…。」
咲子はそれを何時ものように二つ返事で承諾すると、長沼の机にそっとバイオリンを置いた。
長沼はポケットからハンカチを取り出すと、バイオリンの肩当てにそっと巻き添えて、流れるように音を奏でる。
即興で奏でるその音楽は、他のクラスメイトの好奇心を高め、今日もまた、咲子のバイオリン強奪合戦が始まろうとしていた。
「咲子のバイオリンいいなぁ…。」
「そう?」
「カールヘフナーだもんねぇ。」
「341番とか羨ましいわぁ。
うちのは全然音が出ないもん。」
「やっぱりバイオリンには最低でも20万はかけないと話にならないよね、音が。」
「だよねぇ。失敗したなぁ。
もう少し高いの買えば良かった。」
「無理無理。買った所で咲子には敵わないよ。音に対するセンスが違うもん。」
「やっぱり…?
買っても宝の持ち腐れかぁ…。」
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