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さも当たり前の様に、代わる代わる何人ものクラスメイトが咲子のバイオリンを試し弾きする。
その光景は普通ならあり得ないが、6年もこの学校にいるからか、最早何の疑問も驚愕も無い。
咲子が通う、梨園女学院は才色兼備、文武両道、品行方正を地で行く中高一貫の女学院だ。
学生の多くは、祖母、母や姉も此処で学んだという所謂二世学生で、その為、財閥の娘や、大病院の娘何て言うのが、其処ら中にごろごろ転がっている。
バイオリンは弾けて当たり前。
勉強も出来て然るべき。
女として恥じぬ行動を取り、
学院の生徒として誇り高く生きる。
それが、この梨園女学院のスタンダード。
かく言う咲子も、官僚の母に、医者の父を持つのだが、他の学生に比べるとごくごく一般的な生活に近いと自負している。
市立小学校を卒業し、この女学院に入学した時は、想像を絶する環境に絶句したものだ。
あれから、6年。
世に言う高校3年生へと進級した咲子に、
最早当初感じた違和感は残っていない。
自分でも、此処での当たり前は社会に通用しないことをわかっているだけに、咲子は微妙な心境だ。
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