記憶-私という認識-

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  食事とかお風呂とか 正直どうやって生きてたか ほとんど覚えていない。 だけど、弟の手は離さなかった。 ある日、その男はいつものように 缶を手にして一人で飲んでいた。 危険を察知した私は 弟と二人で寝室に逃げた。 何もわからない弟をベッドに寝かしつけ 私は床にひいてある布団にもぐった。 そしてそのまま眠りについた。 何かに気付き私は目を覚ました。 その男が、息を荒くして私の横にいた。 あの匂いがした。 その男は私のパジャマを脱がすと 私の体を舐め始めた。 「ここ、気持ちいい?」 「どんな感じがするか言ってごらん?」 何もわからない私は ただ、じっと黙っていた。 その男は私の下着を脱がすと 股を開いて顔をうずめた。 「ヒゲがくすぐったい」 私が吐いたのはその一言だけだった。 たまに母が帰ってくるようになった。 母がいる時はその男は缶を開けなかった。 母がいる時は弟も笑顔を見せ 休みの日には遊園地に行ったりもした。 母がいない時はその男は缶を開け、 弟を殴ったり 時にはガラスを割る事もあった。 弟が眠ると私の布団に来て 私の体を舐めては感想をねだった。 幼いながらに それがいけない事だと思っていたから 母には何も言わなかった。 一度だけ、 その男を拒んだ事がある。 いつものように私の布団に来たその男に 私は「たーくんが起きるから嫌」 だと言った。 するとその男は リビングからガムテープを持ってきて 私を拘束して押し入れに投げた。 その男は泣いていた。 暗くて狭い押し入れは 今までにない感情を生んだ。 ―怖い、逃げたい。 私は暗い所が怖くなった。  
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