記憶-私という認識-

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  水疱瘡(みずぼうそう)。 「それ」がいなくなった理由は その病気のせいだった。 しかしそんな事を知るわけもない私は 自分のせいだと思い込み 急に怖くなった。 (私のせいだ‥) 罪滅ぼしのつもりで 私は毎日、母と一緒にお見舞いに行った。 「たーくんに会いに行くっ!」 私は「それ」を「たーくん」と 呼ぶようになっていた。 病院の帰り道、コンビニに寄る事が 楽しみになっていた。 父が仕事の時間帯だったので 母と二人でいつもそのコンビニで 肉まんを買って帰った。 「肉まん~肉まん~っ♪」 二人で訳のわからない歌を歌っていた。 この時だけは、母と私の時間だった。 心なしか母が嬉しそうなのを知ってて 私は必要以上にはしゃいでいた。 しばらくして「それ」が また我が家に帰ってきた。 それからだ、私は急に 「それ」を守らなくてはならないと 思うようになった。 「たーくんったーくんっ!」 歩くようになった弟の手を引いては 家中を連れ回した。 弟の言いたい事は全て代弁して ケガをしないか、変な物は食べないか、 全てを見張り世話をした。 全ては罪滅ぼしのつもりだろうか。 自分でもよくわからない。 弟の入院を経て、 私達姉弟は周りから羨まれる 理想の姉弟になっていた。 デパートで私と弟を残して 父と母が隠れた時は、 「お父さんもお母さんも、めっ!」 と言って弟の手を強く握り 泣きそうな顔でずっと 両親を叱っていたと母に聞かされた。 理想の家族だった。 そんな家族に一つのイベントが訪れた。 ―引越し。 ここから少しずつ、私の人生が 狂っていく。  
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