記憶-私という認識-

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  私が四歳になる頃、 私達家族は北九州市という所に 引越してきた。 理由はわからない。 五階建てのアパートの集落。 新しい我が家は七棟の一階だった。 直方の一軒家は母の弟が 譲り受ける事になった。 アパートには私や弟と同い年の子供が たくさんいて近くに公園もあり 外はいつも賑やかだった。 私と弟は、保育園に通う事になった。 仏教の保育園で、横にはお寺があった。 一学年一クラスの小さな保育園だった。 朝早くから皆で小さな置物に手を合わせ お寺でお釈迦様のアニメを観たり あやとりをしたりする。 普通の子供の観るアニメは観ちゃ駄目だと 先生に言われていた。 お昼ご飯を食べるのが遅くて 毎日ホウキで叩かれていた。 わざとこぼして食事を終わらせて 毎日を乗りきっていた。 勿論、父も母もその事を知らない。 母の仕事が忙しく、 私達は一番最後まで保育園に残っていた。 この頃から、父が帰ってこなくなった。 単身赴任。 週末に時々帰る父に、 行かないでと泣きついたのを 覚えている。 そして知らない男が家に 出入りするようになった。 最初は親戚か母の友人だと思っていたが その男は自分の事を 「お父さん」だと言った。 浅黒い肌、口ひげ、茶髪。 私の知ってるお父さんじゃない。 でもその男は優しかった。 ユーモアに溢れ、私達を本当の子のように 可愛がってくれた。 「グッナイ♪」 寝る前にそう言って 私達にキスをするのがお決まりだった。 「お父さんっ!」 私も弟もその男をそう呼ぶようになった。 私の記憶から昔のお父さんは消えた。 子供の私には 何も違和感などなかった。  
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