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「そこのアンタ。止まんなさいよ」
それはあまりにも突然すぎた出会い。振り向く事に一秒もかかりはしなかった。
また女の声だ。振り向いてからそう気付く。最初から誰かに声をかけられる事だけは知っていたかのようだ。
もしかしたらあの黒髪の女が追ってきているのではないかと、どこかで怯えていたのかもしれない。
ただ、現実はそこまで巡り合わせに満ちていなかった。
気の強そうなハスキーボイス。よく通るその声は、声優にでも向いているのではないだろうか。
視界にはたった一人の女が仁王立ちしていた。俺が通う学舎の校章を胸に刻んだブレザーを纏って。
少しつり上がった大きな目は、上向きの長い睫毛に囲まれている。瞳の色はテラカッタ(弁柄色)だ。亜麻色の髪は肘の辺りまであり、風を受けて舞っていた。
日本人にしては高めの鼻に、しっとりとした若干厚めの麗しき唇。俺の鼻の辺りまである背丈。スカートから伸びる脚は長く、芯が通ったしなやかな脚線美を描いている。
雲間から降りるオレンジ色の光をスポットライトに変え、そんな彼女は堂々と佇んでいた。
その表情は、自信に満ちた笑みを作っている。しかしその瞳の奥には浮わついた自惚れなど見られず、何にでも全力な熱い意思が息吹いているように感じ取れた。
「何よその目は。期待外れみたいな目で見ないでくれる?」
ではどのような目をすれば良いのだ? 思わずそう言い返しそうになるも、喉に達す前に呑み込む。
眉をしかめ、あっという間に不機嫌さを顔で露にする女。おまけに腕組みときたものだ。
「なんで黙ってんのよ。折角話しかけてやってるんだから何か一言くらい言いなさいよ」
「ひとこと」
「殺すわよ?」
鬱陶しく感じたが故に選んだライフカード。敢えなく宣戦布告と殺害宣言を頂戴する結果に終わった。
容姿は整っているとはいえ、白い歯を覗かせる口からは不似合いな罵声が出る。なんとも惜しい人間だ。
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