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「オッス! ちゃんと朝ゴハン食った?」
「……」
朝だ。眠りにつけなかった俺を、嫌に明るい朝陽が包む朝。忌々しい陽光を一身に浴びながら、俺はこの日も登校せんと家を出た。
本日も味気無い日常が続く――そんな儚き予想を立てていた俺。しかしてその出鼻は、あっという間に挫かれてしまった。
家門に手をかけると、脇から現れた誰かに声をかけられたのだ。それは、昨夜に撒かれた萌芽の中の一つ。
芽吹きを告げる風にほどける亜麻色の長髪は、日の光を反射させてアイボリーにも見えた。
気の強そうにつり上がった大きな目は、その顔立ちの煌々した様を更に引き立てる。
――昨日の喧し少女だ。秋の味覚が大好物なキテレツ女とも言えよう。
「ボサッと突っ立っていないで、早くこっちに来なさいよ。アンタの脚は飾りなの?」
「……」
さも自然に言ってのけるその女は、家門に手を掛けたまま呆然とする俺を睨んだ。
なんなのだ? どこから指摘すればいいのだ? 何を言えば、この状況への経緯を理解できるというのだ?
俺の伸び放題の前髪の隙間から覗く、あどけなさをにおわせる麗人。杞憂ともしない表情を引っ提げ、彼女は威風堂々とした佇まいを披露していた。
「こんなに天気が良いのに、鬱陶しい前髪ね……どう? 今日あたりぶった切ってみる?」
「……」
「あ、言っておくけど『帰れ』だなんて言われても従えないからね。学校をサボるワケにもいかないし」
「……」
硬直した体は、徐々にこの事態を把握し軟化していった。
嗚呼、なるほど。厄介な者に目を付けられてしまった。俺が昨日言った事もしっかり覚えているみたいだし、家まで知られてしまっている。
どうする? 愛想を振り撒くか? いや、強い口調で追い払ってしまった方が金輪際まとわりつかれる事も無くなるか? しかし、昨日冷たくあしらった結果がこれだ。きっとまた同じ結論に行き着く。
「おーい。聞こえていますかー? その耳に付いている穴は虫食いですかー?」
「……」
「うんともすんとも言わないわね」
「すん」
「殺すわよ?」
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