0.触穢へのペレストロイカ

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 次いで三、四発ほどミドルキックが脇腹に滑り込む。胃液が喉元までせり上がってくるも、なんとか飲み込んだ。  トイレットルームなぞで這いつくばってしまったら、制服やら何やらが相当汚れてしまう。だから倒れてあげるワケにはいかない。  この高校に入学して未だ半年も経っていないというのに、いきなりクリーニング代が掛かるのは心許ない。主に財布の中身が。  さて、本題に戻るとしよう。  動物は誰でも痛みを感じる。イヌネコハムスターは勿論の事、人間も例外無くその対象に属している。  現に俺が受けているこの仕打ちも、本来は時間の浪費と共に相当の痛みを伴わねばならないハズなのだ。  体の至る箇所に青アザが浮き上がり、口の中は血の味で満たされるほどに、今まで暴力を振るわれてきたのだ。痛くて当たり前である。  ――しかし、  もし俺はその痛みを感じることができないと言ったら?  ただただ吐き気を抑え、正気を保ち、倒れないように踏ん張るという単調な作業を行うだけで、痛みに蝕まれずに冷静さを貫いていたとしたら?  気味が悪い。そう、自分から見ても気味が悪いのだ。  『もし』ではなく、事実なのである。俺は無痛の中で生きているのだ。  それ故に、暴虐たるこの仕打ちの中で冷静な心を保てている。怒りに任せることも、悲しみに委ねることも無い。  至って平常心で、何も言わず無関心を貫く。例えるなら、道端で群がっている蟻達の巣窟を横目に歩いているような感覚だ。  蟻が靴に登って咬みついたとて、構わず歩く、歩く、歩く、歩く、歩く――  まさにこの状況。俺にとってリンチなどというものは、蟻の一咬みに過ぎない。痛みを感じないから。  さて、そろそろ俺の現状はあらかた掴めてきただろう。次はここまでの経緯である。なに、とても単調かつ質素な話だ。  下校しようとして下駄箱に立ったら、突然この男達にトイレットルームへと引っ張られ、リンチを受けた。これだけ。  そもそも彼らは、俺に対して前々から力を行使する事があった。が、流石にトイレットルームに引っ張られるというのは初めてだ。
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