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少し肌寒く感じることも多くなったこの頃、学校に続く坂道をせっせと登っている1人の男子生徒がいた。
「やっぱりこの坂道はトレーニングにちょいどいいな」
走るわけではないが、一歩一歩噛みしめるように登る。
「おーい、晴登(はると)~」
後ろからもう1人の男子生徒が「はぁ…はぁ…」ときつそうな声を上げて走ってくる。
「なんだ、田中か」
そこにいたのは晴登の友人であり、自称心の友の田中だ。
「なんだとはなんだ!
失礼な!」
田中は息を切らせながら言う。
「あ、そういえば」
田中は荒だった呼吸を整えながら
「明日の授業参観、お前んちどうすんだ?」
……痛いところをつく。
実は晴登の父、龍樹(たつき)は家にいることはほとんどない。
というか、物心ついた頃からいなかった。
母に聞いても
「仕方ないお仕事だから……」の一点張り。
どこかの重要な役所で働いているらしいが
詳しいことは教えてもらえない。
そんなことを言う母でさえも常に家にいるわけではない。
こちらは大学の講師。
しかし忙しい中、家にいる時間をできるだけ長くしてくれている。
だがしかし今回の授業参観には
「こないよ」
「そっか、まぁお前んちは仕方ねぇな」
田中は中学からの友人。
家の事情も知ってる。
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