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明るかった青空の日は落ち、ポツポツと街に明かりがつきはじめた頃。
『うわ……。折らずに使いきったよ。』
それは、ただただ一心不乱にシャープペンシルの芯を削り続けた結果だった。
机の上は、真っ黒く塗り潰された紙がのっているだけ。
でも、何故か私の心は達成感で満たされていた。
『はは、何してんだろう。
うぅーーん。疲れたなぁ。』
ガラガラ ガラ。
私は大きく伸びをしながら、重たい窓を開けて新しい外の空気を肺一杯に吸い込んだ。
家の前の土手沿いに咲く桜の花が、優しい光に照らされて綺麗に輝いていた。
『綺麗だなあ、もうすぐ満開かな?』
私は不意に桜に手を伸ばした時に初めて、着付け教室に行った恰好のままだった事に気が付いた。
『また怒られちゃうな。まぁ、良いか。』
私は幼い頃から着物が好きだった。
確かに洋服よりも不便な所が多いけど、着物を来ていると背筋がしゃんと伸びるような気がする。
それに、何処か懐かしい感じがするのだ。
スーッと春のそよ風が彼女の頬を撫でてゆく。
『んーー!風が気持ちいい。』
心地よい春風につられて、おもむろに窓から身を乗り出した。
その時だった。
見えない何かに、背中を押されたのは。
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