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『……っ、うわああぁぁぁーーー』
スローモーションで落ちていく身体。
ジェットコースターに乗った時に感じる、まるで内臓が浮く様な感覚に襲われながら、目を瞑りやがて来るべき痛みを待った。
が、しかし。5秒待っても10秒待っても、全く痛みはやって来ない。
えっ……!?どうして?
私、二階の窓から落ちたのに。
もしかして、死んじゃったから痛くないのかな?
それとも、まだ…
「…うっ」
突然、思考を遮るうめき声が聞こえて目を開ける。
『え?』
そして初めて、私は自分の下敷きになっている男の存在に気がついた。
『え、……はっ?
だ、大丈夫です…か?』
下敷きになっている男は、瞳を閉じて微動だにしない。
『あ……、あの!』
声をかけるが、反応はない。
胸は上下しており、息もしている。脈もある。
どうやら気を失っているだけのようだ。
『大丈夫ですか?
私の声聞こえませんか?大丈夫ですか?』
大きな声で何度も何度も声を掛けながら肩を叩いていると、男はうめきながらゆっくりと目を開いた。
彼の目つきは鋭く、しかしどこか涼しげにも感じられる。
衝撃で髪留めが取れてしまったのか…
女性顔負けの、長く綺麗な黒髪を惜し気もなく解放していた。
「うっ……、く。………て、めえ。」
何が起こったか分からないが、彼女に理解できるのは、睨んでいる目の前の男が綺麗であることと、苦痛に顔を歪めていることだけ。
『………。』
声をかけるのも忘れて彼を見つめていると、彼の眉間には徐々に皺が増えて行く。
「チッ。くそっ、……痛ぇ。
てめぇな……いきなり俺の上にのっかるとは、一体どういう了見だ!」
鋭い目つきに似合う、ドスの効いた低い声で近距離からいきなり怒鳴られる。
『ご、ごめんなさい。私も何が起こったのか分からなくて。』
彼の剣幕に押されて、謝る彼女。
「は?何が起こったか分からない?
それはこっちの台詞だろうが。
おまえ、どこのもんだ?」
男の目つきはさらに鋭さを増す。
「そ、そんな………うっ……っ。」
自分でもよく状況が理解出来ていないのに、近距離で怒鳴られ、じわじわと涙が溢れてくる。
その瞬間だった。
「なんでその子、泣かしちゃってるんですか?」
「土方さんっ!」と言いながら、端正な顔に満面の笑みを浮かべた青年がこっちに歩み寄って来る。
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