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この人物がミュラー伯爵。正確にはミュラー=ド=アルタイル伯爵。ミディアルさんの主人であり、現役の法務官庁のトップ、つまり法務大臣を務めている人物だ。
王国では貴族制度こそあるが、永続的な貴族制度ではなく、一身専属的な貴族制度となる。その内、伯爵は行政官庁のトップを務めている或いは務めていた者のみが名乗ることを許される。一方、子爵は行政官庁で次官職を務めた経験のある者が名乗ることが出来る。最高級の侯爵は、宰相――つまり王室の政治を民間の立場から補佐する者の最高職――のみ名乗れる。
簡単に言い換えてしまえば、ミュラー伯爵は住む世界が違う人ということだ。それが何故ボクなんかと顔見知りなのかについては……ここでは語らない。主に伯爵の為に。
「それより伯爵、許可なく人の部屋に入るのは住居侵入罪ですよ?」
「すまない。以前と同じく君が勉強しておるだけだと思っておったのだよ」
ミュラー伯爵は以前にもボクの部屋に来たことがある。その時は勉強に集中していたボクが、ノックの音を聞きそびれて伯爵を外で待たせるという失礼な事態になり、後でミディアルさんに釘を刺されている。
恐らく二人共今回も同様だと考えたのだろう。ミディアルさんがボクの顔を見て面喰っていた理由が分かった。
「今日は彼女と出掛けていたんです」
「ほう、君が以前話してくれたお嬢さんか?その眼鏡も、御洒落の一環かな?」
ボクとノイの関係は、伯爵はおろかベラも知っている。ベラはノイと面識もあるようだが、その時のノイの評価は「悪くないんだけど……」と微妙な評価だった。ベラは学内でも相当もてる男のはずなのに。
ボクがそんな事をのんびり考えていると、ミュラー伯爵がおもむろにワインを取り出して、卓の上に置く。ラベルを覗くと、王冠のマークが印字されている。ワインを含めた酒類への知識はないが、これだけでも相当高級品であることくらい、容易に想像がつく。
ただ、それよりも問題なのは……。
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