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どれだけ沈黙が続いただろうか。一瞬、一秒、いやそれ以上だろうか。体内時計は狂い、時計はボクの場所からは見えない。窓の外で吠えていた犬の鳴き声は止まず、伯爵は微塵もアクションを起こさない。
時間が流れれば、何かが変わるのが世の常だ。しかし、短い時間ではその常が成り立たないこともある。それが、ボクにとってどれだけの不安だったかを、ここでボクが語ることは出来やしない。
「……憲法41条の、判例を御存知かな?」
そんな静寂――ボクと伯爵だけの――は、唐突に終わりを告げた。質問の内容は、『異端児』の判例。一見的の外れた質問のようだが、これは重要な意味を持つ。
判例というのは、裁判所の下した判決であるが、ボクやミュラー伯爵にとっては主文よりその理由が重要になる。
判例の理由には、裁判所がある法律について、どういう解釈なら許されるか、どういう解釈は許されないかを、その基準なども含めて記述される場合がある。そういった基準や解釈の方向性は、補充法として行政機関を法的に拘束する。
つまり、憲法41条の判例を読み解けば、どこまでの行為が憲法41条違反でないのか、裁判所がどう判断しているかを読み解けるという事になる。
「要点だけ。第一、『歴史』に個人の昔話や伝統の業などを含むと解することは出来ない。第二に、個人の学習であっても『歴史の学習』に該当するおそれがある。第三に、禁止という権利制限の様態は合憲である」
こんな感じだ。
因みに、『歴史』のような曖昧な文言の意味内容を限定的に解し、合憲と言う結論を導くことを合憲限定解釈という。この場合だと、『歴史』の定義は『個人の昔話及び回想又は技術、文化、学問等の継承、発展を除き、我が国の内部において過去に起きた事件、災害、その他事象を、個人であるか否か、又は学術的であるか否かを問わず何らかの方法をもって学習あるいは研究すること』となる。
勿論うろ覚えだが、確実に言えるのはこういった風に法律の文言をなるべく限定的に解釈することで、曖昧で不明瞭な文言の定義付け及び処罰対象の限定化を図っているケースがあるという事だ。
これは、何もこの国に特有なことではない。
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