Zwei

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 衝撃でまた固まってしまった。但し、今度はボクだけだが。爆弾をボクに全力投球してきた当の本人は、普段の威厳ある顔から悪戯が見つかった時の悪童みたいな表情に変化している。威厳さを纏わない伯爵の顔を、ボクが見るのは恐らく初めてだ。 「……いや、失敬。正確には君と同じ疑問を抱いていたというべきだったな」 「つまり、伯爵は疑問を抱けど」 「死刑になることが恐ろしくて決行することが出来なかった。いやはや、恥ずかしい限りだ」 「そんな事はないです」   心の底からそう思う。ボクも、正直な所ミュラー伯爵と知り合うまでは、疑問を抱けど実行に移すのを躊躇い続けていた。その理由も、全く同じ。  では何故ボクは実行に移せて、伯爵は留まったのか。その理由は簡単だ。  伯爵という人間を、その肩書をボクが知ったからだ。何より、ボクが伯爵という人間の権利を最大限活用できる可能性があったからだ。  若かりし頃の伯爵には、そこまでの力はなかった。確かに伯爵の父親は著名な学者ではあったが、行政の中枢を担う伯爵や子爵のような権力までは持ち得なかっただろう。  その一方、ボクは偶然とはいえ伯爵と知り合いになり、更には恩を売る機会まであった。  その差が、何十年もの時を経て二人の人間に偶発的なシンパシーを与えている。ボクにはそれが、微笑ましいような気がした。  気づくと、ボクも微笑んでいた。唇の端が持ち上がるのを止めることが出来ない。 「……世の中には、奇妙な偶然があるものですね」 「君もそう思うだろう?私もそう思っていたのだよ」 「事実は小説より奇なり、ですね」  ボクらはそう言って一頻り笑った。 「それで、この話を他ならぬ私にした理由は何かね?」  相も変らぬ悪童のような表情で、伯爵は先を促す。余程ワインが飲みたいのだろう、先程から視線がワインへと走っている。 「分かっているのでしょう?」 「まあ、察しはついているのだが」  かまを掛けたらあっさりと白状した。 「私に、君が捕まらないように手を貸してほしい、ということだろう?」
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