Zwei

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「いいえ」  あれ、違った。この事実に驚いたのはボクだ。伯爵の方は、それほど驚いていない。  ボクはこの人物を過大評価していたのだろうか。いや、そんなことはない。とすると、これからの提案はそれほど突飛なものなのか。いや、そんなことはない……多分。 「では、どうするのかね?」 「ボクの計画では……」  温めていた計画を、打ち明ける。夜の闇に包まれた窓の外は静けさに溢れかえっていた。少し離れた場所からでも、ボクの声が聞こえてしまいそうな程に。  ボクの声のトーンが下がったのは、そんな警戒感の表れ。ここから先の話は、絶対に聞かれてはならないのだから。 「…………」 「それは、また……奇怪な依頼だな。それが、どのような結果を齎すものか、分かった上で言っておるのだろうね?」  奇怪と言われてしまった。さっきの疑問は後者が正しい解だったようだ。ただし、奇怪な依頼であろうが脳味噌はまともだ。つまり、その奇怪な依頼も理解した上で発言している。  ボクがその旨を伝え――首を縦に動かしただけだけど――ると、ミュラー伯爵は複雑そうな顔をした。そんなに無茶なことも、無謀なことも頼んでいない。  寧ろ、ボクの依頼した内容は恐らく最善の方法だと信じている。 「承知した。それならば、君の依頼した通りにしよう」 「ご協力、感謝します」  そう言って、ボクは席を立った。ワイングラスを取りに行くためだ。自分の分はないが、客用にワイングラスを一つだけ用意してある。  客用のワイングラスに曇りや汚れが付いていてはマナー違反だろうと考え、仄かな明かりにグラスを翳(かざ)す。光に淡く照らし出されたグラスは、ボクの顔を映しこんでいた。  長きに渡り嫌いでどうしようもない白銀の髪に、黒縁の伊達眼鏡の奥に鎮座する黒い瞳。それらを含めた顔全体が、グラスの向こうでその顔の持ち主に疲労を訴えていた。その表情の奥に、微かな安堵を湛えつつ。
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