Eins

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「んで、お前どうして休むの?学費払えなくなったなら、オレに相談しろと言ったよな?」  ボクがベラの悪しき性格について一体どうしたら改善されるか考えあぐねていると、ベラが鋭い目線で尋ねてきた。ボクが天涯孤独の身の上であり、生活に必要な諸経費は全て奨学金で賄っていることを知っているので、多分そこが原因だと考えているのだろう。 「違うよ。少しやりたいことが出来たから、それだけだよ」  嘘は言っていない。本当のことも、言っていないけど。嘘とか本当とか、そんなきっちり白と黒で塗り分けされるようなものではない。だから灰色のことしか口にできない。  ベラもそのことが分かっているのだろう、不満そうに口をへの字に曲げている。しかし、彼ならこれ以上ボクを問い詰めたところで意味ないことは分かっているだろう。 「……無駄だよな、これ以上聞いたとしたって」  ほらね。 「勿論、無駄だと思うよ」 「だよな……。わあった。お前の用事が全て終わったら話してくれるのを待つとするよ」  この経験の賜物とも思える会話だが、実はそれによるものではない。ベラはそういう所が極めて優れていて、必要なら存在を空気のようにすることもやってのける。誤解を招く言い方を恐れないのなら、ベラは相手の性格を理解し、その人に合った行動を自分の行動に組み込むという点において素晴らしい素養の持ち主といえる。それが、ボクがベラを気に入っている最大の理由だ。勿論それだけではないが、そのことはここで語る必要はないだろう。 「ありがとう、ベラ。その代わり、いずれちゃんと何で休みを取ったのかきちんと話すから」 「そうしてくれなかったら友達辞めてやる」 「それは願ったりかなったりだ」 「まじかよ」  食事が終わり、何にも載っていない皿に、ボクらの厭味ったらしい笑顔が映っていた。  全然関係ないけど、ブルーチーズのピザはとても不味かったとのことだった。
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