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一方通行的な情報提供が終わった時分には、まだ次の授業開始まで時間があった。ベラが次の授業に出ると言うので、午後の日が差す快適な食堂の中で今度はボクがベラを説得する番が始まった。
「ボクは、キミが心配でならないよ」
「なんで?」
自覚症状が無いのかコイツは。
「講義きちんと聞いて、単位とらなきゃ。学費出してくれてるお父様が泣くよ?留学って、そんなに馬鹿にならないんでしょ?」
「……あー、まあ、な」
ノルスティン王国という国は、法治や行政という部分では世界屈指の国家と称されている。その為、島国であるにも関わらず毎年多くの学生や未来の公務員、或いは法を扱う事を夢見ている人々が留学したり、研修に来たりしている。
勿論、ただでこの国の英知の結晶を渡す訳はない。島国特有の問題――原材料や食糧不足、あるいは技術の不足又は遅れ――をカバーするために、こうした知識や情報を対価に指導をしている。そうした持ちつ持たれつの関係の結果齎(もたら)されたのが、車などの準公共交通機関など、世界でも最先端の技術の粋を集めた商品の数々だ。
そうした利益を手放さないためにも、ノルスティン王国への留学は充実した内容となっている。最高学府である王国立大学ともなると、受け入れる生徒の数も桁が違う。
ベラはそんな留学制度によりこの国に来た留学生だ。母親がこの国の生まれという事で語学の面では問題ないのだが、肌の色がボクを含めたノルスティン王国民と比較してやや白い。
そして、ベラの家は彼の生まれた国でも裕福な家の生まれらしい。
まあ、留学にポンと出してくれるのだから察して知るべし、か。さっき、『学費が払えなくなったら俺に相談しろ』といったのは、それだけ金銭的に余裕があるという事の裏返しでもある。
「いくら裕福でも、金を無駄にするのは良くない」
「だいじょーぶ、今まで単位はキチンととってきた!」
「ボクがノート見せ続けたお陰でね」
この点はきちんと補足せねばなるまい。
「お前にはほんとーに感謝してるよ」
「ならお願いだから授業出て」
「それだけは聞きかねる」
ベラと知り合ってから二年経過しているが、この手の発言をベラはことごとくスルー。後十分で、この態度を豹変させる可能性は万に一つ以下だ。この不真面目な留学生をどうにか出来なかった事がボクの心残りである。
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