Eins

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 説得は失敗し、僕らは何も変わらないまま食堂を出た。終業を告げる鐘の音が、けたたましい目覚ましのように鳴り響く。今日、鐘楼台で鐘を衝く人は相当張り切っているようだ。 「またね」 「おー、いつかなー」  ボク等はそんな呆気ない挨拶で別れを告げた。  ボクはもう授業がないので正門方向へと向かう車の乗り場方向へ赴き、ベラは西門方向の乗り場に戻っていった……それにしても、あいつ、授業出ることがあるんだ。  終了の鐘の音に少し遅れて、各所の講義棟から蟻のように学生が出てくる。その内、ボクと同じ乗り場に並んだ生徒達が、ボクをみて目を見開く……もう何度も見ているけど、やっぱりいい気はしない。だから人の多い所に自分から行く気はしないんだ。  多分ボクの方が先輩なので、後ろに並ぶ生徒を軽く睨むと、すぐに目を背けてしまう。これもまた、慣れているのだがやはりいい気はしない。  そうこうしている間に黒い煙を吐き出しながら車がやってきた。  正門から逃げるように大学を出る。別に何も悪いことはしていないのだが、いかんせん自分の容姿が目立つのでどうしても肩身が狭い。この世にいない母と父を恨んだ時期もあったが、今は恨んでいない。ただ、自分の容姿に誇りの持てない自分が惨めに思うときはある。  大学から離れてもボクと同じ「特徴」を備えた人はほぼいない。しかし、首都でもあるこの街には、刻々と迫る時間に追われて周りのことなどお構いなし、そんな人が予想より遥かに多い。それは、ボクにとっては有難い。  胸のつかえというか、背中を刺す小さな痛みというか、ボクを襲うそういったものから解き放たれたので、晴れ晴れした気分で街を歩く。とはいえ寄らなければならない場所も特にないので、実際には家路を急いでいるだけなのだが。 「……あ」  そう言えば、と省みる。ちょっと前に約束をしていたことを思い出す。しかも二人いる。片方はまだ寛大な方だから問題ないだろうとは思うが、もう一方を怒らせると面倒だ。  待ち合わせまであと何分あるかを確認する。どうやら待ち合わせの時間には今ならなんとかなるようだ。ボクは踵を返し、歩く方向を西へと変える。
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