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1、
視線を感じた。
まるで、全身を舐めるような。
まるで、値踏みでもするような。
そんな、けしていい気分とは言えない視線だ。
窓の外を見れば、屋上で、誰かが立っていた。
誰だろうか。
目を凝らしてみるが、人並みでしかないぼくの視力ではこんなところで屋上にいる誰かを誰なのか特定できるはずもない。
しかしそれでも、居心地の悪い視線だけは感じた。
この学園ではぼくの存在も有名であるから、視線にはあらかた慣れたと思っていたけれど、『これ』はそういう類のものではないだろう。
好奇でも、嫉妬でも、畏怖でもない。
……じゃあ、何だろう?
内心小首を傾げていれば、ばんっ、という大きな音に思わず肩が跳ねた。びっくりして前を向ければ、一人の先輩が無表情でぼくが座っていた席の机を叩いたところらしかった。
ぱちぱちと目を瞬かせて、先輩を見上げる。
先輩は、無表情から一転、花が咲いたような笑みで鈴を転がしたような可愛らしい声を奏でる。
「よお、女子生徒A。この私が先程から何度も何度も呼んでいたというのに、シカトとはどういう了見だい?」
「文愛(あやめ)先輩……」
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