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雨上がり。
湿った大気と、弱い朝の陽光。
濡れたアスファルトが黒くにじむ路地裏。
全身にまとわりつく木犀の香り。
一息吸い込めば、私の心は帰るのだ。
遥か遠く、そして何処よりも近いその場所へ。
小学館の校庭。
錦鯉が舞う小さな池。
その池に影を落とす、大きな銀木犀。
池と木は銀のポールと銀の鎖で囲まれていた。
私はいつもその鎖に座って、ユラユラとバランスをとりながら体育の授業を眺めていた。
見上げると、空も見えないほどびっしりと固い葉をつけた枝に、小粒な銀色の花が花束の様に寄り集まって咲いている。
むせ返るほどの芳香。
私はその香りに包まれるのが好きだった。
風が吹く。
枝がザワと答える。
ぱらぱらと白い花が散る。
ぱらぱらと私の頭に散り落ちる。
わたしの腕に、膝に、そして、白く渇いた校庭の上に転がる。
花と言うには、少しかための丈夫な花弁。
雪と降る、雨と降る。
香りと共に、今も尚。
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