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たぶん、私はそろそろ死にます。
原因は、一升瓶で頭を殴られたから。
殴ったのは私の父親…たぶん父親。たぶんっていうのは私にとってこの人が世間一般で言われる"父親"だとは思えなかったから。もちろん呼び名はお父さんだったし、それ以外は知らない、父の名前は…知らない。
「おいっ! 酒がないっつってんだろぉよぉ…。どこに隠してんだよ!!」
…父は、まだ私が死にかけていることに気づかないらしい。
一升瓶が割れるほど強く殴ったのだから、無傷ですむわけがないのに。
私の記憶が間違ってなければ、一升瓶はすごく固かったと思う。それが割れるだなんておかしい、飲んだくれるだけの父親にそんなに腕力があるなんて知らなかった。
頭蓋骨とか崩れてないだろうか…? 死体まで汚いなんて流石にすこし嫌だ。
いつもみたく胸や脇腹なら、まだこんなことにならなかったかも知れないのに…。
「聞いてんのかぁ! あぁ?」
頭から血が止まらない。
腕からもたぶん血が出てる。一升瓶の破片が刺さっているのだろう。
視界もかすんできた。
耳もよく聞こえない。
どうでもいいことを考えていたら、そろそろこの世ともお別れらしい。
友達のこととか……考えたら良かったのに。なんて…友達なんか、いなかったけれど。
あ、でも近所の野良猫は友達だったかもしれない。自由でのんびりとした私の憧れ。
そういえば今日はまだ餌をあげてない。私がいなくなったら代わりに誰か餌をあげてくれるだろうか?
……友達が猫だけだなんて、本当に私は残念な人間だったみたい。
「っ…!! きゃぁぁあぁぁあ!! 嘘っ! 嘘でしょう…? 目を開けて、お願いだからっ!」
突然、もうほとんど聞こえなかった耳に女性の悲鳴が入り込んでくる。
私の母親だ。気が弱くて、いつも私のことを悲しげな目で見ていた母親。
話した記憶なんてほとんどない。
それでも、必要最低限のことはしてくれた母親。
父親のことが世間様にばれないようにとか、そんな理由だったのかもしれないけど私の世界では一番優しかった人。
ありがとうくらい言いたかったかな…?
自分のことなのによくわからない。
でも、もうそんなことは関係ないとも思う。
もう何も見えないし聞こえない。
もういいかな…死んでも。
その日、私は、死にました。
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